山口簡易裁判所 昭和34年(ハ)130号 判決 1963年11月20日
判 決
山口県下関市南部町
原告
中西豊
右訴訟代理人弁護士
鈴木春季
同県吉敷郡小郡町大字下郷字向土老一、二八二番地
被告
岸本節次
同所
被告
平井明
同所
被告
吉田フジエ
右被告三名訴訟代理人弁護士
御園生忠男
右当事者間の昭和三四年(ハ)第一三〇号家屋明渡請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告に対し、被告岸本節次は別紙目録記載の建物中同目録添付図面のイタヨニヲルヌリチイ点を順次つないだ直線内の部分を、同平井明は同図面のイタレソロカイ点を順次つないだ直線内の部分を、同吉田フジエは同図面のロソレヨニト(ト)ワロ点を順次つないだ直線内の部分を明渡せ。
訴訟費用は被告等の負担とする。
事 実(省略)
理由
(被告岸本節次に対する請求について)
原告は別紙目録記載の建物すなわち本件建物はもと訴外神徳正雄の所有に属していたところ、同人から売買によりその所有権を取得したと主張し、被告岸本節次はこれを争い、本件建物は同被告の所有に属するものであるから原告が右建物について何等の権利も有しない神徳正雄から所有権を取得し得るはずがないと主張するので、まずこの点について判断する。
(証拠―省略)を綜合すれば、本件建物の一部(別紙目録添付図面のハワ(ヲ)ルハ点を順次つないだ直線内の部分)はもと神徳正雄が建築に着手して未完成のまま放置しておいたものであるところ、昭和二六年一二月頃、当時たまたま国鉄を退職する予定であつた被告岸本節次が、国鉄から受給する退職金を資金として何か営業を始めたいと神徳正雄に相談した結果、右未完成の建物を利用して同所でパチンコ店を共同経営することになり、右両者間に神徳正雄は右未完成の建物を完成したうえでパチンコ営業場としてこれを出資すること、被告岸本節次は右建物内にパチンコ営業に必要なパチンコ台その他一切の設備を施してこれを出資し、且つ実際の事業経営に当ること、という約定が成立し、それぞれ右約定の出資を完了して昭和二七年四月初旬頃からパチンコ営業を開始したが、右建物だけでは同建物内に家族とともに居住して右営業の実施にあたつていた被告岸本節次の居住に狭すぎる状況にあつたので、両者協議のうえ更に右建物を増築することにし、同増築費用は右営業より生ずる利益等から支出して、昭和二七年六月一五日頃、別紙目録添付図面のカハヌリチカ点を順次つないだ直線内の部分を増築完成し、従来の建物と合して本件建物(建坪二六坪四勺)となつたこと、右共同事業は当初業績順調であつたが、まもなく営業不振に陥つたため昭和二八年末両者間で協議の結果、右共同事業を廃止することとし、その際右共同事業に出資した財産等の処分につき、被告岸本節次神徳正雄との間に、①被告岸本節次は本件建物に設備してあつたパチンコ台全部その他営業用設備一切の所有権を取得する、②神徳正雄は自己の出資にかかる前記建物および後に増築した建物全部すなわち本件建物の所有権を取得する、③神徳正雄は爾後本件建物を被告岸本節次に家賃一ケ月金一、五〇〇円で賃貸し、右建物に関する固定資産税は被告岸本節次が負担する、以上のとおりの合意が成立したことが認められ、(中略)、その他右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定した事実によれば、本件建物は昭和二八年一二月頃神徳正雄の所有に帰するとともに、爾後同人と被告岸本節次との間に右建物について賃貸借契約が成立したというべきである。
しかして、(証拠―省略)によれば、原告は昭和三三年九月神徳正雄から本件建物を代金五〇万円で買い受け、同年九月一五日直接原告名義に所有権保存登記をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定した事実によれば、原告は神徳正雄から売買により本件建物の所有権を取得し、更に右建物について所有権保存登記をすることによつて、同時に神徳正雄と被告岸本節次間の賃貸借関係を承継したというべきである。
ところで、被告は右原告の所有権保存登記は内容虚偽の建築証明書を添付して為されたものであるから無効であり、したがつて所有権取得および賃貸借承継の事実をもつて被告岸本節次に対抗し得ない旨主張するけれども、現に登記簿上の表示と符合する本件建物が存在し、現在の所有者と認められる原告の意思にもとづき原告名義で所有権保存登記が為されたものであること前記認定のとおりである本件においては、不動産の現在の権利状態の公示を目的とする不動産登記制度の趣旨に反する点は何等認められないから、本件所有権保存登記を為すにつき内容虚偽の建築証明書が添付されたという事実が存していたとしても、その一事のみをもつて右所有権保存登記を無効と解すべき理由はないと考えるので、被告岸本節次の右主張は主張自体失当として排斥を免れない。
しかして、被告岸本節次が原告の承語を得ることなく、本件相被告である平井明、同吉田フジエに本件建物中原告主張のとおりの各部分を賃貸借と称してそれぞれ使用収益させていることは当事者間に争いのない事実であるから、被告岸本節次の右行為は民法第六一二条第一項にいわゆる無断転貸に該るものというべく、更に原告の被告岸本節次の右無断転貸を理由とする本件建物についての賃貸借契約解除の通知が昭和三四年三月一二日に為され、同通知がその翌日被告に到達したことは当事者間に争いのない事実であるから、原告と被告岸本節次との間の賃貸借は同日限り契約解除により終了したものというべきである。
よつて、原告の被告岸本節次に対する賃貸借契約の終了を原因とする本件請求は理由がある。
(被告平井明、同吉田フジエに対する請求について)
右被告両名が本件建物のうち原告主張のとおりの各一部をそれぞれ占有していることは当事者間に争いがない。
しかして、右被告両名は右各占有部分は本件相被告岸本節次から賃借して適法に占有している旨抗争するけれども、前判示のとおり、被告岸本節次は本件建物の所有者ではなく、右建物の所有者である原告に無断で被告両名に転貸していたにすぎないものであるから、被告両名は原告に対して本件建物を占有し得る何等の権限をも有しないものというべきである。
よつて、被告平井明、同吉田フジエはいずれも原告に対し、本件建物中その各占有する部分を明渡すべき義務がある。(結論)
以上のとおり原告の被告等に対する各請求はいずれも正当であるから全部認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
山口簡易裁判所
裁判官 高 橋 弘 次
目録(省略)